2016年3月19日土曜日

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート4

散文的な文章なので読みにくいと思う人もいるかもしれないが…

Study: Giving People Government Health Insurance May Not Make them Any Healthier

Megan McArdle

One of the most important health insurance studies ever done shows surprisingly little effect

衝撃的なニュースがオレゴン州から飛び込んできた。(医療保険に加入していなかった人が)メディケイドに加入した時に何が起こるのかを調べた大規模な無作為化比較対照試験はメディケイドの加入が健康状態を表す指標を何ら改善させなかったことを示した。病院の利用率は増加した、自己負担額は減少した、うつ病と診断された人の割合は低下した。だが健康状態を計る上での3つの重要な指標、糖化ヘモグロビン値、血糖値レベル、血圧値とコレステロールレベルは統計的に有意な改善を示していなかった。

退屈に聞こえるのはよく分かっています。糖化ヘモグロビン値!チャーリー・ブラウンに出てくる大人が大きなあくびをして、さあ寝ようと言っているシーンが思い浮かんだのではないですか?

だが医療政策に関心を持っているのであればこれはとんでもないニュースだ。それもオバマケアという国家的な規模の人体実験が行われようとしていることを思えば尚更だ。

私がこれまでに会ったニュースレポーターたちはこの結果がもたらすすさまじい意味を最小化しようと努めているようだ。

「研究: メディケイド、金銭的負担を低下させる。すぐには肉体的健康を改善させない」とWashington Postは伝えた。

Associated Pressの見出しは、「研究: 保険非加入者のうつ病率がメディケイドの加入によって減少した」だった。

New York Timesは、「メディケイドの拡大がヘルスケアの使用を増加させた」と伝えた。

Slateは、ほんの少しだけ内容をきちんと報道しようとしていたと思う。あくまでもSlate流にではあるが。「オバマケアにとって悪いニュース: 公的皆保険は人々を(ほんの少しだけ)幸福にさせるけれども健康にはしないことを最新の研究が示した」。

この研究は本当に本当に重大なものだ。理由を説明したい。

私たちは、人々に安い価格で医療にアクセスさせることによって彼らを健康に出来ると考えていた。深く考えたこともない、そうでしょう?そうでなければ、私たちはどうして毎月PPO(マネジドケアにとって代わってかなり前から台頭している新しいタイプの医療保険。何故か日本では未だにアメリカではHMOが主流であるかのように嘘を流し続ける人がいる)に保険料を支払おうかどうかで迷う必要があるのか?

だが、そんな気がするといったようなものは、実際に知っているということと同じではない。

2011までは、医療保険に関する無作為化試験はたったの一つしかなかった。医療保険に関するほとんどの研究はパネル研究だった。国勢調査のように、またはNational Health and Nutrition Examination Surveyのように、同一の人から何年間かのデータを集める。初年度から始めて人々を幾つかの集団に分ける。保険に加入している人、そうでない人など。それから時間の経過によって何が起こるかを調べる。このやり方には、もちろん重大な問題がある。その一つは、保険に加入していなかった人はそのままの状態でいるという訳ではないということだ。それらの人にとって、保険に加入していないのは数ヶ月間でしかない。その上、それらの調査は保険が健康に与える影響を調べるのに適したすべてのデータを備えているという訳でもない。だから、それらの研究は死亡率に焦点を絞る傾向があった。ほとんどすべての調査がデータを集めているし曖昧な所が極めて少ないからだ。私たちは「死亡」という単語の意味にほとんど全員が賛同するだろう。そして、死亡というのは非常に悪いことだからだ。

あなたがたの多くは、保険に加入していない人が毎年1万8000人(それが原因で)死亡しているというニュースを聞いたことが多分あるだろう。その数字は2万7000人と聞いたかもしれないが。それらの数字はInstitute of Medicine(後には、Urban Instituteがアップデートするようになった)という機関が流している。その手の研究を元にしてだ。

それらの研究の最大の問題点は、保険に加入している人とそうでない人とでは属性が異なるということだ。

それらの属性の違いとして私たちが知っているうちの幾つかには所得の違い、結婚しているかどうか、移民であるかどうかなどなどが挙げられる。所得が低いことや所得が低い国からの移民などはすべて死亡率と相関するものでもある。

それから、私たちが知らない、ほとんどの統計には現れない属性の違いがある。例えば、欲望の制御に違いがあるかもしれない。離婚をしたり、刑務所に入ったことがあるなどの理由で平均的な市民よりも保険の加入から外れる傾向があるかもしれない。平均的な市民よりもシートベルトをしない傾向、お酒を飲んでヘルメットをしないでバイクに乗る傾向、スナック菓子や炭酸飲料だけで生活している傾向が高いかもしれない。最後には、その人がそのハーレー・ダビットソンで木に衝突した時には、その人の死亡は保険に加入していない人の死亡率を引き上げるだろう。保険の有無とはほとんど関係がないにも関わらずだ。これは社会科学者が「除外変数バイアス」と呼んでいる問題で、医療保険に関する研究のほとんどすべてを駄目にしている問題だ。

問題の一端を少し紹介したいと思う。パネル研究は、メディケアやメディケイドが人を殺すと結構な頻度で示している。私は冗談を言っているのではない。それらの研究の幾つかのものによると、メディケアやメディケイドに加入している人の死亡率は保険にまったく加入していない人よりも高い。年齢や喫煙などを調整した後でさえもだ。

分かった。メディケイドが実際に人を殺しているというストーリーを創作することも出来るだろう。悪い医者だけがメディケイドの患者を診て、悪い医者に掛かることは医者に掛からないことよりもずっと悪いといった具合に。だが現実的には、そのような事例がどれぐらいあるだろうか?その研究の筆者たちは、メディケイドに加入している人々は所得が低い傾向が高く、薬物中毒の問題を抱えている傾向があり、そして死亡率を高める他のすべての要因を抱えている傾向があると(説得的に!)説明している。だから、あなたが目にしているものは実際はメディケイドに加入していることの影響ではなくて、メディケイドに加入する人の影響を受けているということだ。

その問題は、保険に加入していない人のデータを歪めているものと同じだ。

一方で、幾つかの観察研究は医療保険にわずかの効用も見出していない。例えば、メディケアが設立された前と後の高齢者を調べたある研究は、65歳以上の高齢者全体が保険に加入したというのに死亡率に少しの改善も見られなかったことを示した。そして、観察研究の中でも最大のもの、60万人以上を対象にした研究は、保険に加入しても死亡率に違いがなかったことを示した。これは、保守派の手によって行われたものではない。その筆者はサンディエゴ大学のRichard Kronickで、彼はクリントン政権のアドバイザーだった。

医療保険は命を助けているのか?いないのか?観察研究の結果からは何とも言いにくい。データを見る限りでは、人々を保険に加入させても救われる命はゼロという可能性を排除できない。さらに言えば、オバマケアがネットで見て人を殺すという結果も排除できない(私はオバマケアが人を殺すだろうと言っているのではない。その可能性が幾つかの基礎のしっかりした観察研究の結果の範囲内に十分に入っていると言っているに過ぎない)。

上記までのものが、2010にアトランティック誌に私が書いた記事の要約だ。その記事では、「4万4000人の人が保険に加入していないために毎年亡くなっている」というような統計をメディアが絶賛しようが、私たちには何人ぐらいの人が亡くなっているのか、仮に数字がゼロ以上であったとしてさえも、分からないと指摘した。だが今回のオレゴン州の結果は、私にとってさえも驚きだったと告白せざるを得ない。その記事の最後に、保険が何の影響も与えていないとは考え難いと思うと私は書いていた。そのような結果が出るのは検出しにくいからかもしれないとも書いていた。保険の影響は恐らく小さいのだろうと私は考えていた。その記事がオバマケアのサポーターを激怒させてしまったとはいえ、その記事は実際に保険に効用がまったくないかどうかの議論ではなく、この種の研究を行うことの困難さに関して主に書いたつもりだった。

Enter the RCT

理想的には、保険の影響を見るには調査データによるものではなく無作為化試験によるものが望ましい。人々を2つのグループに分けて、一方には保険をもう一方のグループは保険に加入しないままにさせておく。言うまでもなく、これを行うには問題がある。一旦コントロール群に入れた人々をそのままにしておくことは難しいし、彼らのうちのどれぐらいが病気に罹るかを見るためだけに多くの人を保険に加入させるのは非常にお金が掛かる。

私たちにとって幸運なことに、はるか前の1971にランド研究所が先頭になりこれを行った。少なくともそれに近いものだった。彼らは数千世帯の家族を集め5つのグループに分けた。グループ1には完全に無料のヘルスケアが与えられた。グループ2からグループ4には費用負担率が20%から95%まで異なる(グループ4には、掛かった医療費の5%だけが支払われるということを意味する)当時から見ての「伝統的な」保険プランが与えられた。費用負担プランには自己負担額が所得に占める割合に上限も設けられていた。グループ5にはHMOプランが与えられた。その次に、彼らは健康状態にどのような違いが表れてくるかを調べた。

ショッキング。何も表れてこなかった。

そうそう、小さな影響が幾つかあった。低所得層の間で、高血圧がほんの少し改善した。これまた低所得層の間で、歯科治療がほんの少し改善した。視覚も同様だった(ヒント: 安い時には、人は頻繁に眼鏡を取り替える)。だがその他のものでは、何らの違いもなかった。より寛大な保険を与えられた人々はよりヘルスケアを消費した。だが彼らは健康にはならなかった。事実、より寛大ではない保険を与えられた人々は健康を心配しなくなったと答え病欠も少なくなった。

保守派はこの研究をヘルスケア研究の「ゴールドスタンダード」と呼ぶことを好んだ。リベラル派はこれを嫌った。彼らはそれはたった一つの研究にすぎないと主張した。その研究は、1971から1982とかなり昔に行われたものでもあった。医療システムが現在とはかなり異なるかもしれない時代だ。そして、保険に加入していない人と保険の影響を比較したものでは厳密にはなかった。それは、ベーシックな保険の影響とより寛大な保険の影響とを比較したものだった。これらの批判は、(現在のリベラル派とは完全に異なり)まったく妥当な批判だ(ただし、だからといってランドの研究の正当性を損なわせるものではまったくない)。

オレゴン州の研究の話に戻ろう。

2008に、オレゴン州は自然実験の完全なる機会を提供してくれた。彼らは1万人を新たにメディケイドに加入させようとしていた矢先だった。不幸なことに、希望者はその人数よりも多かった。だから彼らは抽選を行った。

ヘルスケアの専門家たちは一番かわいいボンネット帽と一番のシルクのエプロンを持って、「Oh frabjous day! Calloo!  Callay! An actual RCT!」と歌いながらメイポールの周りを回りながら踊り始めた。それから、非常に賢い人達がその周りに集まり始めて、この大規模で豪華な研究のための参加者を集め始めた。最終的には、抽選に選ばれた1万人の中から6400人がサインをし、参加はしたが抽選に選ばれなかった5800人がコントロール群となった。アメリカは次の質問の答えを本当に試す初めての大規模な国家的実験の機会を得た。人々をメディケイドに加入させると、どのぐらい健康状態は改善されるのか?

2011に、研究者たちは参加者たちの初年度の結果を発表した。その時に私が書いたように、その結果はロールシャッハ・テストのようだった(心理学のテスト。ここでは見る人によって結果が変わるようなの意味で用いられている)。オバマケアを支持していた人たちは、それをメディケイドが命を救っている証拠として解釈した。私はそれを複雑な気持ちで見ていた。

「その結果は…私の考えを非常によく確認したものに思えた。推奨されていた幾つかの予防的スクリーニングを含めて、ヘルスケアの使用量は増加した。金銭的負担は低下した。自己申告された指標は改善した。他の結果はより不明瞭だった」

「例えば、彼らが発見した最も大きな影響は自己申告された健康状態の指標だった。有意とはいえ、とてもわずかなものだった。うつ病は減少した。抽選に選ばれた人は自分たちの健康状態が良い、非常に良い、素晴らしく良いと答える傾向が少し高くなっていたが。これは、より医者に掛かるようになった人は医者が患者に不安になるようなことを言うため健康状態が損なわれたように感じるという理論を否定しているように見える。だがFinkelstein et. alが指摘しているように、彼らが実際に健康になったということをまったくもって示していない。実際、自己申告された健康状態の改善の3分の2は抽選に選ばれて即時に、人々が治療を受ける前に発生している。このことは、この影響が肉体的健康状態の改善ではなく心理的なものであることを示唆している。筆者たちが言っているように、「全体として、この証拠は保険によって健康状態が改善したように感じるということを示唆している。だが現在のデータでは、この改善が本当には何によってもたらされたのかを判断することは難しい」ということだと思う」

「一方で、使用量の増加ははっきりしたものであるが「質の」指標はというと明らかに結果が悪い」

[第一に、私たちは7つの代表的な症例に対するヘルスケアの使用量の変化を調べた。その7つとは心臓病、糖尿病、感染症、精神障害、アルコールと薬物中毒、背中または腰の問題、肺の炎症全般がある。心臓病に対してのみヘルスケアの使用量が有意に増加していた。私たちは保険が外来治療に与える影響と入院治療の質を示す3つの指標(患者を危険に晒すような有害事象を起こさないこと、退院から30日以内の再入院がないこと、病院の質)に関しても調べた。このどちらの指標においても改善が見られなかったという帰無仮説を棄却することは出来なかった。だが信頼区間も極めて広かったため、定量的に大きな効果があるという可能性も排除できない。最後に、保険の有無が患者が公立病院に向かうか市立病院に向かうかに影響を与えるかも調べたがそこでも統計的に有意な違いは得られなかった]

「死亡率が低下したかどうかに関して、経済学者は「メディケイドが、実際に命を救っていることが確認された」と声を大にして叫んでいたが、その筆者たちはそのようなものを発見していなかった。私は「パネルAは生存確率に何らの統計的に有意な改善を見いだせなかったことを示している」とはっきり書かれている部分を引用した。死亡率とそれに関連する平均寿命などの指標は測るのが簡単な部類の指標だ。誰が死んでいるか、ということに関してはほぼ全員が同意するだろうし、死亡というものはとても悪いものだ。プログラムの推進者にとって、感情的に最も訴えやすいものでもある」

「だが、死亡は65歳以下ではほとんどない。よってメディケイドが死亡率に大きな影響を与えない限り、1年間の研究では表れないのかもしれない」(ここで、前の記事からの引用終わり)。

問題は、1年目の結果では客観的な健康状態の指標(心筋梗塞や、脳卒中、四肢の切断のような)を見ることが出来なかったことだ。彼らは死亡率を調べたが、有意な影響はなかった。従って、この結果を報道した大部分のメディアは「メディケイドが健康状態を改善した」と伝えていたが、その研究が本当に言っていたこととは人々が健康になったと感じたと自己申告した(主観的な指標)ということだ。客観的な指標の方は2年目に行われることになっていた。それが、もう過ぎてしまったが今年の夏頃に公開される予定になっていた。だがオバマケアのサポーターは客観的な指標の方も良いに決まっていると頭から決め付けていた。健康になっていないのならばどうして人々は健康になったと感じたと語ったのか?

The Data Speaks

悲しいことに、何らかの理由により2年目の結果は公表が延期された。それは本当に残念なことだ。先程の11月に投票を行った多くの有権者、オバマケアの一部であるメディケイドの拡大をするかしないかこの春に迷っていた多くの州知事たちはこのデータを早く見たかっただろうからだ。

ここに、その結果がある。

「私たちはメディケイドの拡大が高血圧または高コレステロール値の発症率または診断率、またはそれらの症例を治療する薬の使用量に何らの有意な影響を与えていないことを発見した。メディケイドの拡大は糖尿病の診断率と糖尿病治療薬の使用に有意な正の影響を与えた。だが糖化ヘモグロビン値には統計的に有意な影響は見られなかった。メディケイドの拡大はうつ病と診断される割合を低下させた(-9.15%ポイント、95%信頼区間は-16.70%ポイントから-1.60%ポイント、P値は0.02)。予防的サービスの使用を増加させた(スクリーニング検査)。そして金銭的負担を低下させた」。

どの客観的な指標も有意な改善を示さなかった。高血圧も。糖化ヘモグロビン値も。コレステロール値も。一方で、うつ病の診断率は確かに低下した。だがこの結果ははっきり言って奇妙だ。先程した説明に加えて、抗鬱剤の有意な使用の増加が伴っていないというのもある。従って、メディケイドがうつ病に本当に影響を与えたのかは定かではない。私は、うつ病が大きな問題ではないとか、これは大きな影響には見えないとか言っているのではない。これが何を意味しているのかはっきりしないと言っている。メディケイドを拡大させるとうつ病が減少するということを知っても何か意味はあるだろうか?

政策に対するインプリケーションもはっきりしない。うつ病を治療したいのであれば、メディケイドはそのために設計されたものではないだろう。

コレステロール値と血圧値に戻ると、これらこそがメディケイドが対象にしていると想定されていたものだ。それに関してはこの研究は何と言っているのか?メディケイド、もっと言えば医療保険全般が役に立たないと言っているのか?

それはさておき、Slateがこれがオバマケアにとって悪いニュースだと言ったのは正しい。覚えているかもしれないが、保険の拡大の半分以上はメディケイドを通して行われることになっている。

最近では、オバマケアのサポーターが過去にしていた発言を歴史修正主義的に改変しようとするのが流行になっている。私たちが最初から知っていたように、オバマケアは「医療費の増加率を低下させる」ためのものでもなければ、保険料を低下させるためでもなく、財政赤字を削減させるためのものでもなければ、そしてさらに今ではこれに肉体的な健康状態を改善させるためのものでもないというのが追加されたようだ。実際、多分私たちが最初からオバマケアに期待していたものとは軽度のうつ病を治療するための100兆円のプログラムだったというように改変させられるのだろう。

よろしい、それは私が記憶していたこととは異なる。私が覚えている所によると、オバマケアは何万人もの命を毎年救うためのものだとリベラル派は言っていた。この研究を見た後では(見る前でも)その数字を信じることは到底不可能になった。

目を血眼にしてデータを凝視してみれば、ええ、多分、影響は有意ではなくてもほんの少しは改善がある所が見つかるかもしれない!そのような海の中から針を見つけ出そうとするような作業をリベラル派は現在行っている。だがもしそのような作業で、メディケイドの加入者の健康状態が有意ではなくても逆に悪くなっているのを見つけてしまったならば、目を血眼にして探している我らがリベラル派諸氏がそれら小さな影響が有意ではなかったのは検出力が低かったからだ!と大いに宣伝してくれるかは甚だ疑問だ。

1万2000人以上が参加した無作為化試験を行い、それに対して自分の持論の擁護がその研究は多分十分な検出力を持っていなかったのだろうといったようなものであれば、その人が実際に言っていることとは「有益な効果は恐らく極めて小さいのだろう」と言っているのと同じことになる。注意しておかなければならないのは、私たちはLipitorやCaduet、Avandiaのように高コレステロール値、高血圧、糖尿病などの治療に用いられる新薬のフェーズ3に匹敵するサイズの研究に関して話しているということだ。もちろん公平に言って、それらの新薬の治験は対象とする病気の人だけに行われる。だから、より検出力は高いかもしれない。だがこれも公平に言って、それらの治験の参加者は1万2000人よりも遥かに少なくそれでも統計的有意差を確立することが出来ている。

そして、この研究の筆頭研究者であるKatherine Baickerが2011に述べているように、「サインした人々はかなり病気がちだった」とされている。それにも関わらず、この研究は最も代表的な慢性疾患に関連する3つの指標に改善が見られなかったと結論している。これらは、私たちが治療するのを非常に得意としているもので、そして直接的かつ有益な影響を健康に与えると強く考えているものでもある。

高血圧症の治療薬やインシュリン濃度/血糖値の測定などは抗生物質の発見には及ばないかもしれない。だがそれらは20世紀の医療のトップ5には入るだろう。私が見た推計によると、高血圧症の抑制は脳卒中からの死亡率を半分に低下させ心臓発作からの死亡率を3分の1に低下させた。これらの治療は簡単で、低コストで、労力も少なく、副作用も極めて小さい。最も難しい部分は患者に薬を飲ませることだったりする。高血圧は心臓に重大な症状が現れるまでは痛みを伴う自覚症状が見られないからだ。

スタチンの副作用はそれよりは大きい。それに糖尿病の治療はより困難を伴う。だがそれでも、以前には保険に加入していなかった6400人を治療した研究であれば十分な検出力があると見做していいと思う。

他の見方としては、「治療が必要な人数」から考える方法もある。ある悪い結果を避けるためにはどれぐらいの人が治療されている必要があるのか?私が今までに見た推計によると、5年の期間内で一人の脳卒中を防ぐためには29人の重度の高血圧が治療される必要がある。そして高血圧が重度のものでなければその数字は118人になる。オレゴンの研究によると、コントロール群と比較して(保険に加入していない人)血圧が正常値に戻った人は追加で85人多かった。従って、6400人をメディケイドに加入させることにより5年の期間内で多くて3人の脳卒中を防いだかもしれないことになる。もしくはゼロ人だ。

Josh Barroがツイッターで指摘しているように、メディケイド加入者の血圧値の平均は0.81ポイントしか低下していなかった。これはその85人の血圧値がすべて非常に大きく低下したということを示していないだろう。数人だけが大きく低下させたか、閾値を少しだけ下回った人がまあまあの人数いたかどちらかだろう。血圧値を例えば、111から109に低下させることは脳卒中のリスクを劇的に低下させるものではないという意味で私は話している。だが定義上は、「血圧が高い」から「正常な範囲内にある」というカテゴリーに移るだろう。

だがそれはメディケイドが健康に何の影響も与えないということを意味しない。統計的に有意ではなかったということを意味している。それらは関連しているが、同じではない。実際、3つの指標はすべて改善の方向に一応は向かってはいる。これが単なるランダムなノイズであるという可能性を排除するほどには大きくなかったかもしれないということだ。

だがこの結果の過小評価も避けたいと思う。これらはメディケイドが助けになると期待されていた主な3つの慢性疾患だ。私はツイッター上で、がんや、パーキンソン病、アルツハイマー病などへの効果は見つけるのに恐らくもっと長い時間が掛かるだろうと指摘した。実際、メディケイドの患者の大部分は50歳以下でそれらの病気の症状が表れるのは平均で67歳、60歳、72歳なので、効果を見つけるのに何十年も掛かるだろう。治療の効果を見つけるのにはそれよりもさらに長い時間が掛かるかもしれない。だがそれらの人々はすでにメディケアで治療されているだろうから実際には効果を見つけることは出来ないだろう。彼らと比較するコントロール群は存在しない。

それら研究デザインの問題が解消されたとしてもまだ問題は残る。それらの病気の進行は非常に遅いので、早期の発見を寿命が伸びたと簡単に混同してしまうだろう。もし誰かが85歳までに亡くなる病気に掛かったとして、84歳ではなく72歳でそれが見つかったとすればその病気の「生存確率」は劇的に改善するだろう。だがそのことは実際には、その人の生存を助けた訳ではない。アメリカでがんの生存率が素晴らしく高いと保守派が指摘する時にリベラル派が決まって口にする反論だ。

But What About Non-Health Measures?

最後に、金銭的負担に移ろう。コントロール群の約5%、300人ぐらいが医療費が所得の20%を上回ったと申告している。メディケイドでは1%だった。メディケイドのグループは2万1500円、別の言い方をすれば40%、コントロール群よりも自己負担額が少なかった。

2011に書いたように、この結果はそれほど驚くべきことではないように思える。メディケイドは所得の保護としては機能しているように見える。健康の保護として機能しているかは定かではない。「誰かの医療費を他人が支払えばその人の手元にはよりお金が残る」というのは興味深い話題ではないし驚く結果でもない。意味のある結果ではあるしデータが得られたことは喜ばしいことだ。だがほとんどの人は、オバマケアに最も敵対的に反対している人であっても、オレゴン州の研究がその逆の結果を示すとは考えていなかったはずだと思う。正確な数字が得られたというだけのことだ。

本当に興味深いのは、むしろこっちだ。コントロール群は極めて頻繁に何の問題もなくヘルスケアにアクセスしている。セイフティ・ネットがなかったとしてもだ。

「この研究は検出力が足りない」と言っているのを他の方法で言い換えると「保険に加入している人と保険に加入していない人の差があまりにも小さすぎて1万2000人では検出できない」と言っていることになる。ここから色々な憶測が成り立つ。保険に加入している人は主な慢性疾患の治療をすべてしっかりと受けている。またはメディケイドの患者が受けている治療は彼らにあまり有益に働いていない。

メディケイドがここで見ているよりも大きな影響を与えているとあなたが主張するとしても、保険に加入していない人は驚くほど良好に医療にアクセスしているということも認めなければならない。この研究が対象とした市場では、保険に加入していない人の大多数は(糖尿病患者、高血圧症、コレステロール値の高い人たちの大部分の人たちでさえもが)オレゴン州のメディケイドと同等以上に医療にアクセスしている。主観的な指標は同じではないかもしれないが、だが外部から見れば彼らに違いはほとんど見られない。

これは、Richard Kronickが示したこととも非常に良く一致する。保険に加入していないことによる死亡リスクの上昇は見られないと彼が示した時のものだ(彼自身も驚いたと告白している!)。

ここで尋ねなければならないことがある。メディケイドまたはオバマケアは、精神的な問題を解決するためにデザインされたものだっただろうか?精神科の無料クリニックかまたは現金を手渡した方が良いと思う人の方が多いだろう。

もし2年前にこの研究が有権者の前に知らされていれば、彼らが「はい、これを聞いて1600万人を新たにメディケイドに加入させたくなった。全員に保険の購入を義務付けることも必要になったと感じたね」と答えるようになるとは到底思えない。だが、もちろん2年前にはこの情報は知らされていなかった。その代わりに私たちが毎日のように聞かされていたのは、2000から2006の間に15万人の保険非加入者が亡くなっているというトンデモ情報だけだった。もっと多い人数を耳にしたかもしれない。そこには、この新しい法案を通過させればそれだけの数の人の命が救われるだろうという暗示が掛けられていた。

それが、オバマケアのサポーターたちのこの研究に対する反応が率直に言ってがっかりさせられる理由の一つだ。彼らががっくりと膝を落として、「おお、神よ。公的医療保険はとんでもない過ちでした!」と叫ぶ姿を期待していたからではない。それが、明らかに正しい反応だと私が思っていたとしてもだ。私は彼らと以前に会っていたし、彼らの反応も先程述べたようなものではなかった。

だが現時点で、2つの大規模な無作為化試験がともに驚くほど小さな効果を示している。オレゴン州の研究の最初の結果が2011に公開された時、オバマケアのサポーターはこの結果を予想していなかった。彼らはこの研究の第二フェーズでは、血圧値、血糖値、コレステロール値などの主な健康状態の指標が大きく、有意に改善していることが示されるだろうとはっきりと言っていた。そして結果は見ての通りだ。

ベイジアンであれば、新しいこの情報に基づいてアップデートすべきだろう。この結果を踏まえると、オバマケアがアメリカ人の健康に良い影響を与える確率はどれ位だろうか?私たちの一人残らず、その確率を下方に修正しなければならない。全員がゼロにしなければならないと言っているのではない。以前までは高く設定していたとしても、現在では(大幅に)下げなければならない。

私が読んだコメントのトーンはそのようなものではなかった。金銭面の負担に関する影響が全面的に強調された。それはそれほど驚くべきものでもなければ意味がある結果でもないというのに。うつ病も全面的に強調された。健康面の話はほとんど触れられなかった。

公平に言えば、データは2年間でしかない。私が聞いた話では、この研究はこれ以上続けられないそうだ。オレゴン州は財政難を乗り越えてもっと多くの人をメディケイドに加入させるためのお金を十分に確保したからだそうだ。そのことが残念だと言っているのではない。失われたデータのことが悲しいと言っているだけだ。がんなどの病気に対して有益な効果が表れる可能性はほんの少しはあったかもしれない。そのことはもう分からない。またはもしかしたら、今度の結果は偶然だったのかもしれない。信頼区間には正の影響が含まれる。今回は特に運が悪く、たまたま非常に悪いサンプルに出会わせたのかもしれない。

それでもだ。この結果がすべてだ。この研究は医療保険に関するこれまでに行われた大規模な無作為化試験の2つのうちの1つだ。そして一つ目のものと同様に、今回も有意な影響は見られなかった。これはとてつもないニュースだ。明らかに、良いニュースではない。人々にお金を与えれば健康になるというほど話が単純であれば良かったかもしれない。だが大きいニュースだ。

そして、オバマケアなどより遥かに意義が大きく重要だ。私たちは全員が、医療保険(またはメディケイド)がどれ位健康を改善するかという事前の考えを更新しなければならない。この研究が本当に伝えてくれたこととは、ヘルスケアに関して私たちが知っていたことがどれ程少なかったか、または人々を健康にするということに関して何も知らなかったかということだろう。そして、私たちが最も直感的だと思っていたことでさえ、データによって安々と反証されてしまうのか?ということだろう。

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