2016年3月19日土曜日

2013年に全米を駆け巡った弩級のニュース?医療保険は加入者の健康状態も死亡率も改善させていなかった?パート6

Amazing Fact! Science Proves Health Insurance Doesn’t Improve Health (Maybe)

Peter Suderman

ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン誌に掲載された新しい研究はメディケイドの拡大が肉体上の健康状態を有意に改善させなかったことを発見した。これは保険加入の半分以上をメディケイドに頼っているオバマケアにとっては間違いなく悪いニュースだ。オバマケアの支持者らは、サンプルサイズが小さいからその研究は無効だと主張している。だがメディケイドに遥かに友好的に見えたこの研究の最初の1年目の結果が公開された時はそのように報道されたことも解釈されたこともなかった。2011の6月に最初の第一ラウンドの結果に関して書いていた多くの人たちはその研究の設計の見事さ、その結論の間違いなさなどを絶賛していた。

例えば、Kaiser Health Newsに宛てた記事でNew RepublicのJonathan Cohnはその研究の設計を「他のものとは比べられないほど有益なものにしている」と断言している。左寄りのCentury Foundationはその研究の「発見は反論不可能なもの、論破不可能なもの、絶対的なもの」と声明を出している。Incidental EconomistのAaron Carrollはその研究の厳密性を強調している。「これが無作為化比較対照試験であるということを何度でも何度でも強調したい」と書き、「RCTは因果関係を証明するのに本当に最良の方法だ」と語った。そしてそれがRCTだったので、彼は「私たちは因果関係を語り始めることさえ出来るようになった」と結論した。Ezra Kleinは以下のような見出しでそれを絶賛した。「驚くべき事実!科学が公的医療保険が機能することを証明した」(言うまでもなく、彼は皮肉のつもりでこのタイトルをつけている)。彼はどうしてRCTがそれ程価値が高いのかを説明していた。「研究のゴールドスタンダードは誰が治療を受け誰が受けなかったのかをランダムに選ぶものだ。そのように選ぶことにより、その結果がその2つのグループの違いによって歪められたものではないということを知ることが出来る」と書いている。

そして時間が経った現在、彼らにとって物事はすべてが不明瞭になったようだ。「オレゴンの研究の問題点は」、とKleinは今日の朝に書き記し、「この結果から何を学んでいるのか私たちには分かっていないことにあるのだ」と語った。最初の結果が公表された時には、因果関係を語る準備が出来たはずのCarrollは今では皆に警戒を呼び掛けている。「魂を奪われたかのようなリベラル派の同志たちへ。これは単なる一つの証拠に過ぎない。これは、メディケイドに加入した人々の間で幾つかのことが改善したことを示した。他のことでは、変化は有意ではなかった。それは何の効果もなかったと同じではない。さらに他のことでは、判決はまだ出ていない」と語っている。

最初の1年目の結果は今週公開された結果よりも実はよりロバストなものではなかったということは特筆に値する。1年目の結果は当然1年しか調べていないというのもあるが、それには肉体的な健康状態に関する客観的な指標がまったく含まれていなかった。代わりに、筆者たちは自己申告された健康状態に改善が見られたことを発見した。メディケイドに加入することになった人々は、単に健康になったと感じたと述べたに過ぎない。そしてその改善の3分の2は治療が始まる遥か前に起こっていた。だがオバマケアの支持者にとっては絶対的な勝利宣言をするにはそれで十分だったようだ。実際、客観的な指標を欠いていたにも関わらず、多くのレポーターたちはメディケイドが健康を改善する(というより命を救う)ことの論破不可能な証拠を手に入れたと宣言するのにさえ十分だったようだ。

例えば、The White Houseのブログではこの研究の1年目の結果に対して「Health Insurance Leads to Healthier Americans」というタイトルが付けられていた。ABC Newsは「メディケイドに加入することにより肉体的な健康が改善することが証明された」とこれを紹介した。医療政策を分析しているHarold Pollackは1年目の結果を用いて「保守派は、医療保険は健康を改善していないと主張するのを止めることが出来るか?」と問い掛けている。Incidental EconomistのAustin Fraktは「彼らはメディケイドが健康を改善するという証拠を見つけるだろう」と自信を表明し、さらにこの研究の方法論と設計の見事さを絶賛した。New York Timesのアナリストは「保険を拡大することは社会的に見てお金を節約することにはつながらないだろう。予防的医療を提唱している人が主張しているのとは異なる。だが保険は人々を精神的に、肉体的に健康にしているように思われる」と結論している。Harvardで医療政策を教えているJohn McDonoughはこの研究を絶賛しその結果に対して注意を促している人をけなしている。「否定論者はすでに活動を開始して、この研究は加入者の実際の健康状態が改善したかどうか識別するのに失敗したと主張している」と彼は記した。「その手の結果(ここでは、実際の健康状態の改善のこと)は来年出るに決まっているのに」と続けた。

今がまさにその時だ。だが私たちはその手の結果を見ることはなかった。彼らたちが必要だと言っていたまさにその厳密さで。客観的な健康状態の指標は確かに少しの改善を見せた。だが有意ではなかった。メディケイドが因果だと言うにはとてもではないが十分ではなかった。何もなかったと言っているのではない。潜在的には興味深くさえある。だがそれは決定的な証拠からはかけ離れているし、メディケイドが客観的な健康状態に観察できる違いを生み出すことが出来るのかと疑いを抱く強い理由にさえなる。

左派の一部はまだ勝利を主張しているが、少し考えただけでも彼らの主張が危機に陥っていることが分かる。

メディケイドのようなプログラムの主な目的が金銭的負担から個人を保護することだと言うのであれば、どうして遥かに遥かに安いcatastrophic insurance program(重大な事故や病気に対する保険)を支持しないのか?所得の低い人が本当に欲しているものが金銭的保護だと言うのであれば、どうして単に現金を渡さないのか?

うつ病が減少したという結果は奇妙なものだ。うつ病の治療薬の使用が増加していないのもその一因だ。うつ病の減少という結果は今回オレゴン州のメディケイドに加入することになった人が抽選で選ばれたという事実にかなりの部分起因するものかもしれない。私たちも知っているように、抽選に選ばれたら嬉しいと感じるものだろう?

サンプルサイズが小さくて客観的指標が改善していたとしても有意かどうか検出できないという主張に対しては、百歩譲って改善がメディケイドのおかげだと仮定しても、それはメディケイドの膨大な費用に見合うものだろうか?現在、メディケイドは連邦政府だけで毎年25兆円の費用が掛かっている。その数字は次の10年で57兆円を超える見通しだ。それには各州の費用が含まれていない。その費用に対して、受給者が健康になったかどうかは良くても極めて不明だ。

私は、今ではリベラル派の医療政策コミュニティにも反省を促している人がいるのを見て希望を持っている。この研究の結果を踏まえれば、それが正しい姿勢だ。だが、その人たちには最初からそうして欲しかったと思う。そして彼らにはこれからは自分たちの考えに対して懐疑的な姿勢を取って欲しいと願う。オレゴン州の第二ラウンドの結果は、メディケイドが幾つかの指標に改善をもたらしたかもしれないという可能性を完全には排除していないということを示唆している。今回は有意ではないけれども一応は改善を示した指標もあったということで左派はそのことだけを強調した。だがさらなる研究は改善がないこと、今回の改善も単なる統計上のノイズでしかないことを容易に示しうる。言い換えると、科学はメディケイドが有効だとも無効だとも本当には証明していない。だが客観的な肉体の健康状態の指標に対して、メディケイドを通して保険に加入した人は保険に加入していない人と比較して大した違いがないかもしれないということを強く示唆している。

0 件のコメント:

コメントを投稿